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恍惚境裡にただ独り

浪漫を糧に生きています

兵士の休息

戦うために生まれた兵士が、祖国から離れた土地で、かつて彼の戦場であった空を見上げながら、ひっそりと死んでいこうとしていた。どうやら戦争は随分昔に終わったらしい。もう自分のことなど誰も覚えていまい…。 


 

ある日、懐かしい日本語が聞こえる。おやこいつは珍しいこともあるもんだ、日本語なんて何十年ぶりに聞くだろう。驚きはそれだけではなかった。「待たせてしまってすまんなぁ…さぁ、帰ろうか」信じられない、祖国に帰れるなんて!凱旋ではないのが残念だけれども。 



長い旅を終え、目を覚ました彼はさらに驚くこととなる。なんとそこは、彼が生まれた格納庫ではないか?もちろん、当時と比べると見た目も置いてある工具も違ってはいたけれど、忘れるわけはなかった。隣で翼を休めている綺麗な迷彩服を着た青年が興奮した様子で話しかけてきた。「先輩、おかえりなさい!」 



もうここには、当時の彼を知る技術者も整備員もいない。しかし、技術はしっかりと受け継がれていた。ベテラン技術者が、若い技術者を導きながら、兵士を蘇らせてゆく。ボロボロだった手も、足も、そして翼も、すっかり美しくなった。 



そうして、若き技術者によって彼は新しい翼を授けられた。だが、その翼は空を飛ぶには弱すぎる。昔のように飛ぶことは、ましてや戦うこなどできないだろう。しかし彼は、その翼に満足していた。自分は戦うことしかできないと思っていたが、それだけではないことが分かったから。


これからもここで、祖国の技術者を見守っていこう。そう思いながら彼は永遠に翼を休めることにした。

 

数年前、飛行機をつくってる会社さんに見学に行った。そこでは、若い技術者が、ベテランさんに技術を教えてもらいながら第二次世界大戦時の戦闘機を復元してて。

遠い南の国で、ゆっくりと朽ち果てようとしていた戦闘機が、一部だけとはいえ祖国に戻ってきたことだけでもジーンとするのに、復元するためにかつてその戦闘機をつくった会社の現代の技術者が立ち上がるってアツすぎでしょ。今はもう当時を知る者は誰もいないのに、継承された技術は生きていたんだ!っていう。 


 

前回は技術の進歩から取り残されて緩やかに死んでいく飛行機の話をしたけれど、技術と部品さえあれば蘇ることもできるんだ。これは希望だ。